ブロックチェーン寄付導入時にNPOが検討すべき法規制と会計処理
ブロックチェーン技術による寄付への期待と実務的な課題
近年、ブロックチェーン技術は、寄付活動における透明性や信頼性を飛躍的に向上させる可能性を持つとして注目されています。寄付金の流れを追跡可能にし、使途報告をより明確にできるこの技術は、NPOや公益法人の運営者様にとって、資金調達や寄付者との関係構築において新たな扉を開くものです。
しかし、新しい技術の導入には常に実務的な課題が伴います。特に、ブロックチェーン技術の中核をなす「暗号資産」を寄付として受け入れる場合、既存の法規制や会計処理との整合性をどのように取るのか、という点は多くの運営者様にとって懸念事項となるでしょう。本記事では、ブロックチェーンによる寄付システムの導入を検討される際に考慮すべき、法規制と会計処理に関する主な論点について、専門知識が限定的な読者様にもご理解いただけるよう解説します。
ブロックチェーン寄付における法規制の論点
ブロックチェーン寄付において、特に実務上の注意が必要となるのは、寄付が暗号資産で行われる場合です。暗号資産は、日本の法律では「暗号資産(仮想通貨)」として位置づけられており、その取り扱いには特定の規制が適用されます。
資金決済法との関連
暗号資産の交換等を行う事業者は、資金決済法に基づき内閣総理大臣の登録を受ける必要があります。NPOが寄付として暗号資産を受け取る行為自体は、原則としてこの「暗号資産交換業」には該当しません。しかし、受け取った暗号資産を換金するために第三者の交換業者を利用する場合や、将来的に暗号資産を直接他の個人や団体に送付するような運用を考える場合には、資金決済法や関連するガイドラインを確認し、自らの活動が規制の対象とならないかを慎重に判断する必要があります。
税法との関連
寄付を受け入れたNPOにとって、税務は重要な論点です。NPO法人や公益法人が受け入れた寄付金は、原則として法人税法上の収益事業に係る所得以外の所得として非課税となりますが、これが暗号資産である場合にどのように取り扱われるか、という点は明確にしておく必要があります。
税務当局の一般的な見解では、法人が暗号資産を取得した場合、その時点での時価で評価し、その後の価格変動による含み益・含み損は期末に評価換えを行うことが求められる場合があります。また、暗号資産を売却して日本円などの法定通貨に換金した際には、売却時点での時価と取得時価との差額が損益として計上される可能性があります。これらの取り扱いは法人の区分(NPO法人、公益法人等)や、暗号資産の取得経緯(寄付、購入等)によって異なる可能性があります。寄付として受け入れた暗号資産の税務上の評価方法や、換金時の損益計算などについて、事前に税理士等の専門家へ相談し、正確な処理方法を確認することが極めて重要です。
その他考慮事項
- AML/CFT(マネーロンダリング・テロ資金供与対策): 暗号資産の匿名性・追跡困難性(実際にはパブリックブロックチェーンは追跡可能ですが、利用者の特定が難しい場合がある)に起因する懸念から、暗号資産の受け入れにはAML/CFTの観点からの注意が求められます。高額な寄付を受け入れる場合などに、寄付者の本人確認をどこまで行うか、疑わしい取引を検知した場合の対応など、内部的なガイドラインの整備が必要になるかもしれません。
- 法改正のリスク: ブロックチェーン技術や暗号資産に関する法規制は、世界的に見てもまだ発展途上であり、今後も改正される可能性があります。常に最新の情報を収集し、対応できるよう準備しておく必要があります。
ブロックチェーン寄付における会計処理の論点
NPOの会計基準に基づき、寄付として受け入れた暗号資産をどのように記録・報告するのか、という点も実務上の重要な課題です。
寄付受け入れ時の評価
寄付として暗号資産を受け入れた時点での適切な評価が必要です。一般的には、受け入れ時点での市場価格(時価)を用いて、寄付金の価値を評価し、受贈益として計上することになります。どの取引所の価格を参考にするか、受け入れから計上までのタイムラグをどう考慮するかなど、内部的なルールを定める必要があります。
期末評価と評価損益
保有する暗号資産は、会計期末において時価で評価換えを行う必要があります。これにより発生する評価差額(含み益または含み損)は、原則として損益計算に影響を与えることになります。暗号資産の価格変動リスクは非常に大きいため、多額の暗号資産を長期間保有する場合には、その価格変動が団体の財務状況に与える影響を十分に考慮する必要があります。
換金時および利用時の処理
受け入れた暗号資産を日本円などの法定通貨に換金して事業資金とする場合、換金時点での時価と、取得時点(寄付受け入れ時点)または期首(または期末評価時点)の評価額との差額を、売却損益として計上する必要があります。また、もし暗号資産を直接、特定の物品やサービス購入のために利用する場合も、その利用時点での時価で評価し、使途を明確に記録する必要があります。
使途の記録と報告
ブロックチェーンの特性を活かし、寄付金の使途を透明化するためには、受け入れた暗号資産がどのように管理され、どの事業に、いつ、いくら使われたのか(または換金されて使われたのか)を詳細に記録し、外部に報告できる体制を構築する必要があります。会計システムとブロックチェーン上の記録をどのように連携させるかも検討すべき点です。
導入検討時の実務的な考慮点
法規制や会計処理の課題は、ブロックチェーン寄付システムの導入そのものよりも、導入後の運用フェーズで直面する可能性が高い課題です。これらの課題をクリアし、安心してブロックチェーン寄付を運用するためには、以下の点を考慮することが推奨されます。
- 専門家への相談: 暗号資産やブロックチェーン技術に関する法規制や税務は複雑であり、頻繁に変更される可能性があります。ブロックチェーン寄付の導入を検討される際には、必ず暗号資産や非営利法人会計に詳しい弁護士や税理士といった専門家にご相談ください。団体の状況に合わせた具体的なアドバイスを得ることが不可欠です。
- 内部規定の整備: 寄付として暗号資産を受け入れる際の評価方法、管理方法、換金ルール、期末評価のルール、使途の記録・報告方法など、具体的な運用に関する内部規定やガイドラインを明確に定めておくことが重要です。
- システムの選定と連携: ブロックチェーン寄付を受け付けるシステム(ウォレット、寄付プラットフォームなど)を選定する際には、そのシステムが法規制や会計処理の要件を満たすための機能(例:寄付受け入れ日時と時価の自動記録、取引履歴のエクスポート機能など)を備えているかを確認することも有効です。また、既存の会計システムとどのように連携させるか、検討が必要です。
事例紹介
法規制や会計処理そのものに特化した公開事例は少ないですが、多くのブロックチェーン寄付プロジェクトでは、これらの実務的な課題を解決するために、専門家のアドバイスを受けたり、透明性の高いレポート機能をシステムに組み込んだりといった対応を行っています。例えば、一部の海外の慈善団体では、暗号資産での寄付を受け付けた際に、その暗号資産を迅速に法定通貨に換金することで、価格変動リスクや会計処理の複雑さを軽減するアプローチを取っています。また、寄付金の使途報告においては、ブロックチェーン上のトランザクション(取引記録)と実際の事業活動を結びつけ、透明性を高める工夫をしている事例が見られます。
まとめ:実務的な課題を乗り越え、可能性を拓く
ブロックチェーン技術を用いた寄付は、透明性向上や新たな資金調達手段として、NPOの活動に大きな可能性をもたらします。しかし、その導入・運用にあたっては、特に暗号資産の取り扱いに関する法規制や会計処理といった実務的な課題を十分に理解し、適切に対応していく必要があります。
これらの課題は決して容易なものではありませんが、専門家の知見を活用し、組織内でしっかりと準備を進めることで、克服することは可能です。法規制や会計処理に関する論点を明確にし、透明性高く適切に運用されるブロックチェーン寄付システムは、寄付者からの信頼をさらに強固なものとし、団体の活動をより一層推進する力となるでしょう。この新しい技術を安全かつ効果的に活用するために、実務的な側面からも丁寧な検討を進めていくことが重要です。